1.インターフェロンとは?

インターフェロンは1950年代に日本人により、はじめウイルス感染を抑制する因子(ウイルス干渉因子)として同定されました。サイトカインと言われる物質の一つです。サイトカインは免疫系を調整して、感染防御、生体機能の調節、様々な疾患の発症の抑制に重要な役割を果たしていますが、全部で数百種類あります。その中で、インターフェロンは、上でも述べたようにとりわけウイルスなど感染防御に重要な役割を果たしています。

 

ウイルスは人の体に感染すると、細胞内にもぐりこみ、その中で細胞がもともと持っている酵素など、いろいろな機能を利用しながら増殖します。ある程度増えると、増殖したウイルスは細胞から出ていって、また別の細胞に感染します。このようにしてウイルスは体の細胞にどんどん拡がっていくのです。

 

免疫系にとっては自分の体の細胞の中にもぐりこんだウイルスを退治するのは、同じ感染でも細胞の外にいる細菌をやっつけるのに比べると、ちょっとやっかいです。というのはウイルスが細胞の中に入り込むと、白血球が直接攻撃することはできなくなりますし、白血球が作り出す抗体というタンパク質である抗体を使っても直接攻撃することもできないからです。

 

この場合、細胞障害性T細胞といわれる白血球がウイルスに感染した細胞を検知して、感染した細胞もろともウイルスをやっつけてしまうのです。これにより増えたウイルスがさらに別の細胞に感染して、拡がっていってしまうのを防ぎます。いわば火事で燃えてしまっている家をとりこわすことにより、延焼を防ぐようなイメージです。

 

ウイルスに感染した細胞はインターフェロンを作り分泌します。インターフェロンは正常細胞においても微量つくられていることが分かっていますが、ウイルスが感染すると、この産生が増えるのです。インターフェロンの抗ウイルス作用は、ウイルス粒子に対する直接作用というより、ウイルスが感染した細胞に抗ウイルスタンパクの合成を誘導し、この細胞にウイルス抵抗性を与えると考えられています。

 

インターフェロンは体の細胞の膜にある受容体にくっつくと、細胞の中にこの情報が伝わります。するとウイルスの遺伝子を切断する物質や、ウイルスのたんぱく質が作られるのを妨げる物質が作り出され、ウイルスが細胞内で増えるのを防ぎます。またインターフェロンが上でのべた細胞障害性T細胞を活性化してパワーアップさせることで、この細胞がウイルスに感染した細胞を検出しやすくして、ウイルス駆除が効率的に行われるようになります。

 

風邪などのウイルス感染などの場合には、自然にうまくまわっているこのシステムも、不十分になる場合があります。例えばC型肝炎ウイルスなど、持続的に感染するウイルスの場合がそうです。そこでC型肝炎を治療するには、外からインターフェロンを投与して、細胞障害性T細胞を活性化してウイルスを駆除するのを助けるのです。

 

この他にもインターフェロンは、がんの防御にも関わっています。ガン細胞は正常の人でも日々少しずつ作られているのですが、免疫系が生じたガン細胞の表面の分子などの情報から異常な細胞を検出し、これを攻撃して増殖しないうちに、つまりがんができあがらないうちに、駆除してしまいます。ところが歳をとったりして全身の免疫系の力が落ちてきたりすると、がん細胞を駆除する力が弱ってきて、この免疫系の防御をかいくぐったガン細胞が増殖し、ついには癌ができあがってしまうのです。

 

免疫系にとってガン細胞を取り除くのは、細菌などを取り除くのよりやや困難です。というのはガン細胞はもともと自分の体の正常な細胞からできてきたものですので、少なくともできあがった当初は正常の細胞に似ているからです。人の体には生まれつき備わっている免疫システムがあって、外来の病原菌や異物を駆除しています。このような役割を果たす細胞の一つにナチュラルキラー(NK)細胞という細胞がありますが、ガン細胞の特有の表面のタンパク質を手掛かりに、特殊顆粒を使って見つけたガン細胞を攻撃します。ガン細胞の特有の表面のタンパク質を手掛かりに、これを攻撃する細胞障害性T細胞という種類の白血球もあります。

 

これらの白血球は、がん細胞の表面にあるタンパク質の分子などを手がかりにがん細胞を認識するとそれを攻撃します。インターフェロンには腫瘍細胞直接作用して細胞増殖を抑制する作用もありますが、NK細胞や細胞障害性T細胞を活性化しパワーアップすることにより、ガン細胞を駆除する働きもあるのです。

 

この他にインターフェロンは免疫調節タンパク質を誘導すると言われています。インターフェロンβは、後で述べる多発性硬化症のような免疫が関係している疾患で用いられることもあります。

 

2.インターフェロンにはどのような種類がある?

インターフェロンは一種類しかないわけではありません。抗原性その他の性質の差からα(IFN-α)、β(IFN-β)、γ(IFN-γ)の3種類に分類されています。これらを産生している細胞も異なります。α型、β型はマクロファージ、好中球、樹状細胞および他の体細胞で作られます。

 

一方、IFN-γはT細胞やNK細胞などの免疫系細胞で産生されます。またインターフェロンは細胞にはたらく受容体も異なるので、細胞に対する作用も異なります。

 

治療として用いられるインターフェロンには、α2a、α2b、β1a、β1b、γ1aがあります。またインターフェロンαには天然型のものと、インターフェロン遺伝子を大腸菌に取り込んで、大量に生産させた遺伝子組み換え型のものがあります。また化学的に修飾して持続時間を1週間程度と長くしたPEG-インターフェロンもあります。副作用がやや少ないとされています。IFNβ-1aと IFNβ-1bは、いずれも遺伝子組換え技術により作られます。またインターフェロンγも遺伝子組み換え型のものが使われています。

 

3.インターフェロンはどのような病気に使われる?

3-1. がん

抗がん作用を期待して投与されるインターフェロンは主にIFN-γです。上で述べたように、IFN-γはNK細胞を活性化することにより白血球をパワーアップさせ、がん細胞の駆除に役立つとされています。

 

このような作用を生かして、腎細胞がん、多発性骨髄腫、ヘアリー細胞白血病、慢性骨髄性白血病などの治療に用いられます。またIFN-αも慢性骨髄性白血病、IFN-βは悪性黒色腫、膠芽種などに用いられています。

 

3-2. C型慢性肝炎

C型肝炎やB型肝炎はC型肝炎やB型肝ウイルスというウイルスが肝臓の細胞に感染することによって起こります。感染が持続し慢性化すると、肝臓の細胞が壊され慢性肝炎という状態になり、やがて肝硬変や肝がんへ進行していきます。

 

そうなるのを防ぐためには、感染したC型肝炎ウイルスの増殖を抑え、場合により取り除く治療が必要です。ところがC型肝炎ウイルスのように感染が持続しやすいウイルスに対しては、体内で普段作られるインターフェロンでは、とうてい追いつきません。

 

そこでその抗ウイルス作用を利用して、インターフェロン(IFN-αとIFN-β)を治療薬として使います。リバビリン、テラプレビルといった他のウイルスの増殖を抑える他の薬と一緒に使うことによってC型肝炎ウイルスの増殖を抑えます。同じ様に、インターフェロンはB型肝炎ウイルスによる慢性肝炎の治療にも用いられ、ウイルスの増殖を防ぐために用いられます。

 

3-3. 多発性硬化症

インターフェロンは、その免疫調整作用を生かして多発性硬化症の治療にも用いられます。多発性硬化症というのは、中枢神経系(脳および脊髄)と視神経の脱髄による病変(脱髄斑脱髄巣)が多発する疾患です。炎症性の脱髄性病変が中枢神経の白質のいたるところに発生し(空間的多発性)、また時間的にも、急性に再発しては寛解を繰り返すのが特徴です(時間的多発性)。

 

原因は不明ですが、遺伝的な素因にウイルス感染などが加わることで、髄鞘に対する免疫反応がおきる、自己免疫性の機序が考えられています。ここで重要な役割を果たすのがTリンパ球のうち、T helper type 1(Th1)といわれる細胞で、この細胞が末梢でTh1細胞が抗原提示を受けて中枢神経のミエリンを構成する蛋白(神経線維をコーティングしています)に対して反応するようになり、脳の白質の髄鞘を攻撃してしまうようになるのです。

 

IFN-βは多発性硬化症の再発回数を減らしたり、症状の進行を抑制する効果、再発した時の症状を軽くしたりする効果が認められており、MS 治療における第一選択薬の一つとなっています。いずれにせよ、2 つのタイプのβインターフェロンが多発性硬化症の治療に使用されています。

 

その作用のメカニズムは十分にわかっていませんが、以下のようなことが考えられています。末梢でTh1細胞が抗原提示を受けて活性化するのを防ぐこと、活性化したTh1細胞が血液脳関門を超えて 中枢神経系に浸潤するのを防ぐこと、Th1細胞がサイトカインを産生することを抑制することがあるといわれています。さらに、多発性 硬化症の臨床経過に大きな影響を及ぼすとされるウイルス感染を制御することで、疾患の悪化を防ぐと考えられます。またMRI検査で確認できる多発性硬化症の病変が拡大したり、新しい病巣の出現を減らす効果もあります。

 

アボネックス®、ベタフェロン®があります。前者は週に一回筋肉に注射(筋注)、後者は2日に一回の皮下注が行われます。注射のたびに、のちに述べるインフルエンザ様の症状が出る人がいるので、注射の頻度が少ない、アボネックスのほうがよく使われるようになっています。アボネックスはインターフェロンβ1a、 ベタフェロンはインターフェロンβ1bと種類も若干違います。後述のように、うつ症状もでることがあります。

 

4.インターフェロンの副作用にはどんなものがある?

インターフェロンは様々な病気に大変効果のある薬ですが、体内で作られるインターフェロンの量では足りないため、治療には生理的に作られるよりかなり多くの量が用いられます。そのため、さまざまな副作用が生じることもあり注意が必要です。

 

インターフェロンの副作用には、出現する時期によって、初期(治療開始~2週)、中期(2週~3か月)、後期(2-3か月以降)のものがあります。

 

4-1. 初期(治療開始~2週)の副作用

①インフルエンザ様の症状

上で述べたようにインターフェロンはインフルエンザになったときに、身体の中でつくられる物質です。したがって外から治療で投与した場合にも同様の、頭痛、発熱、関節痛、筋肉痛、全身の倦怠感(だるい感じ)などのインフルエンザ様の症状が出ることがあります。

 

90%以上の患者さんにあらわれる副作用です。インフルエンザ様症状に対しては解熱鎮痛剤を服用ないしは座薬として用います。治療に慣れるにしたがって自然に軽快する人もいますが、ずっと続く人もいます。

 

②皮膚症状

注射部位にとどまるものから全身に拡がるものまで様々です。前者では注射部位が赤く腫れたり、強い場合には壊死、腫脹、硬結などが出現することがあります。自分で注射している場合は、注射の手技がきちんとできているかを確認し、注射する体の部位を毎回変えるようにしましょう。注射部位以外であっても、皮膚のかゆみや、発疹があらわれることがあります。患者さんによっては後述のように非常に重い皮膚の副作用がでる場合がありますので、このときは注意が必要です。

 

4-2. 中期(2週~3か月)の副作用

①消化器症状

吐き気、食欲不振、腹痛、下痢、便秘、口内炎などの消化器症状を認めることがあります。リバビリンと一緒に用いた場合には、味覚障害などが出ることがあります。

 

②精神症状

不眠・焦り・落ち着かない・イライラするなどの症状が出現することがあり、ひどいときには後述のうつ症状をきたすことがあります。

 

③血液データの異常

自覚症状はでなくても、血液検査の異常が出ることがあります。例えば、血小板減少、白血球減少、肝機能異常(GPT/GOT)などがみられます。血小板、白血球については、治療開始後2〜4週間は減少し続けますが、その後の減少はほとんど見られないのが普通です。

 

そこで治療開始まもなくは血液検査も必要になります。これらの異常があっても、多くの人で様子をみることができますが、あまりに異常が強ければ、薬をやめる必要がある場合もあります。治療前から白血球、血小板の少ない方は要注意です。

 

4-3. 後期の副作用(2-3か月以降)

①脱毛

インターフェロン治療をして2か月くらいで出現し、3-4か月でピークになる副作用です。脱毛は軽度のことが多く、投与終了後自然に回復しますが、1~3ヶ月後まで続くことがあります。60歳以上の方では回復が遅くなることもあります。

 

②その他の副作用

間質性肺炎や甲状腺機能異常が副作用として見られることがあります。間質性肺炎については、乾いた咳、微熱、運動時の息切れが症状としてみられます。小柴胡湯という漢方薬と一緒にインターフェロンを使うと、間質性肺炎を起こしやすいことが知られており、一緒に服用してはいけません。

 

甲状腺機能異常については甲状腺ホルモンが多く分泌される場合(甲状腺機能亢進症)と、逆にホルモンの分泌が少なくなる場合(甲状腺機能低下症)があります。インターフェロンの使用により、心臓病、腎臓病、糖尿病の悪化などが見られることがありますので心臓病、腎臓病、膠原病のある人もインターフェロンを使うときには注意が必要です。血圧が上昇したり、頭痛が出る人もいます。肝臓障害、免疫異常による関節リウマチや糖尿病の恐れもあります。

 

4-4. とくに気をつけなければならない重篤な副作用

重篤な副作用としては以下のようなものがあります。これらの症状が出た場合は緊急事態と考え、すぐに担当の医師を受診して、指示を受けてください。

 

①皮膚症状

薬剤性過敏症症候群といって、皮膚の症状が激しくでることがあります。38度以上の高熱とともに、頸、わきの下、股の部分を含めて、全身に赤い発疹が出現します。のどの痛み、リンパ節が腫れるなどの症状を伴うこともあります。やけどのような水膨れができたり、場合によって口や眼の粘膜にもできる、中毒性表皮壊死症をきたすこともあります。このような症状が起きると、視力障害が起きることもあります。

 

②敗血症

血液に細菌がはりこみ、全身に回ってしまう状態です。

 

③失神

失神やせん妄、錯乱、幻覚、妄想などといった意識障害をきたすことがあります。

 

④うつ症状

インターフェロンの副作用として精神症状がみられることがあると述べましたが、ひどくなるとうつ症状をきたし、場合によって患者さんが自殺することもあります。うつ症状は約30%の人にみられるとする報告もあります。とても注意が必要な副作用です。もともと、うつ病がある場合は、インターフェロン治療は禁忌です。

 

⑤眼の症状

眼の充血、めやに、瞼の腫れなどが出ることもあります。視力低下・目がチカチカするなどの症状、あるいは眼底出血、網膜症、白内障などの眼の副作用がでることもあります。眼底出血は後期に出やすい副作用と言われています。治療開始前、その後は1ヶ月毎に眼科で検査してもらいましょう。

 

5.おわりに

インターフェロンには抗ウイルス作用、抗腫瘍作用、免疫調節作用などさまざまな働きがあり、いろいろな病気に使われることがおわかりいただけたでしょうか。インターフェロンはそれぞれの病気の治療に大変効果がありますが、作用が強いと同時に、強い副作用を呈する場合がありますので、医師の指導のもとできちんと使い、副作用が出た場合には、医師ともよく相談しながら治療していくことが大切です。副作用によっては、薬を中止する必要がある場合もあります。